執筆準備中3

『「新治療法」に気をつけろ! びっくり医学の温故知新』(牧潤二)

 現代においてはマスコミで、病気の「新しい治療法」が次々と紹介される。その種の書物も多数、出版されています。そして、特に難病などの人では、その「新しい治療法」にのめり込んでしまい、結局、大金を使ったものの、その病気は治らなかった、というケースが非常に多いのです。
 実際、現在において「新しい治療法」として登場する多くのものの原型は、明治・大正時代から昭和前期(戦前)において出尽くしています。また、その有効性の有無については、とっくに結果が出ています。そこで、現在の、あるいはこれから登場するであろう「新しい治療法」について、その原型と、無効だったという顛末を紹介することをとおし、注意を促します。


 【内容】
1.民間療法 
 築田多吉の「赤本」(『家庭に於ける実際的看護の秘訣』大正14年刊)は大正時代までの民間療法の集大成で、この「赤本」を超えるものは、まだない。築田多吉はもともと海軍で看護を担当する軍人(事務官)で、「赤本」は軍人や家族のための健康書として出版された(初版15,000部は即完売)。さらに、「赤本」は戦時中、きわめて医療資源が乏しい時代において、一般国民のための健康書となっていった。戦後までの期間を合わせると、約1,000万部のベストセラーといわれている。現在紹介されている民間療法の大多数は、この「赤本」のパクリである。
 ここでは「赤本」の概要、その本質と限界を述べる。

2.健康法
 昔から、実にさまざまな健康法が登場している。例えば、全国米穀商業組合連合会による「節米健康法」(昭和15年)、洋式健康法のはしりの「ジャクソン式強體健康法」(昭和15年)、大澤昌寿の「自力肥満身長矯正法」(昭和15年)、美座時中の「誰でも出来る美座式国民保健治病術」(昭和5年)、脊椎調整健康増進器(昭和11年)、さまざまな催眠器(昭和7年頃)、1日1食主義(昭和4年)、「喫煙は歯牙並びに口腔粘膜を健康にするのは確実である」との説、などである。また、現在では多数のフィットネスクラブが営業しているが、戦時中は各地に「健民修練所」が作られた。
 このように、健康法をめぐる状況は、昔と変わらない。そして、健康であろうとすることが、人々にストレスを与えている。

3.血液を使った治療法
 戦前には、自分の血液を注射する治療法(自家血清療法)、あるいは他人の血液を注射する治療法(健康法)が、ごく当たり前のように行われていた。例えば肺炎・喘息・糖尿病に対する血液注射、といったものである。最近、他人のリンパ球を注射する治療法が医師法や薬事法違反で話題になったが、このような治療法は、戦前から存在しているのである。また、馬の血液をヒトへ輸血する研究(陸軍軍医)、海水をリンゲル液にする研究(京都府立医大外科教室、昭和19年)、火傷の瀉血および輸血量法など、血液に関してはさまざまな治療法が検討されていた。
 そのような背景の下、現在において難病の分野で、血液を使った治療法が思い出したように登場してくる。

4.同種(同一臓器)療法
 現在、ホメオパシー(同種療法)が話題になり始め、また最近では『同一臓器療法』などという本も出ている。しかし、この種の治療法は、昭和前期に出尽くしているのである。例えば、自分の膿を注射する治療法、肋膜炎の自家滲出液注射療法、人乳注射による催乳法といったものである。

5.放射線(光線)療法
 電磁波を使った治療法として戦前、あらゆる病気に「ジアテルミー」(電波療法)が行われた。最近、この「ジアテルミー」が復活しつつある。また、戦前には、「太陽燈療法」によるマラリアの治療(赤外線ランプで腹部照射)、虚弱児にX線と紫外線を応用、X線避妊法、喘息のX線療法、多汗症に対するレントゲン療法、痔瘻のラジウム療法、マツダ健康ランプ、人工高山太陽灯など、あまり効果がなかったり、むしろ危険なものが登場した。放射線を使った治療法には、注意が必要である。
 
6.がんの治療法
 がんは昔から恐れられているもので、さまざまな治療法が登場し、消えていった。例えば、癌のマラリア療法、胃癌のP・O・U「ホルモン」療法、臍帯(へその緒)で癌を治療する方法、食道癌に対する青酸療法などである。
 しかし、現在において登場する癌の治療法の中には、それらの発想が受け継がれているものが少なくない。例えば、アミグダリン(杏の実)で治療する方法は、前述の青酸療法の発想である。
 それらの顛末を知ることにより、これから登場する「新治療法」と呼ばれるものについても、冷静に判断することができる。
 
7.糖尿病
 糖尿病は「国民病」と呼ばれているが、昔は、それほど患者は多くなかった。しかし、例えば硫黄療法、魚から取ったインシュリンの「フィゼリン」など、糖尿病に対するさまざまな治療法が登場し、みんな消えていってしまった。

8.高血圧
 高血圧に対する治療法は、現在、ほとんど降圧薬を使用するだけである。このように単調な治療法だけに、なかなか長続きしない。しかし、戦前は、フッ化水素電気誘導による高血圧治療など、なかなかユニークなものがあった。それらの顛末を知ることは、現在における適切な治療法を続ける動機付けになる。

9.近視
 近視に対する「治療法」や「予防法」は、徴兵制の面から、むしろ戦前のほうが興味が持たれていた。例えば、「都村式近眼治療器」、圧迫による近眼治療器などが登場した。それらの顛末をとおして、現在において適切な治療法を考える。

10.色盲の治療法
 色盲の治療法は、周期的に登場する。過去に、色盲治療液、色盲の補正練習帳(昭和9年)、色盲矯正用眼鏡(昭和10年)といったものがあった。
 ここでは、色盲に対する無理解や差別というものを踏まえて、登場しては消えていったさまざまな治療法を紹介する。

11.胆石症
 現在、胆石症の治療法は、溶解剤や衝撃波による破砕など、さまざまなものがある。しかし、戦前でも、卵黄療法、ゾンデ使用による排除法など、さまざまな治療法があった。それらを知ることで、現在での適切な治療法を選ぶことができる。

12.結核
 戦前まで不治の病だった結核には、おどろくほど多数の「治療法」が登場した。その代表的なのが、石油を飲む「石油療法」である。これは、当時の婦人雑誌が大々的に記事にし、多くの医師・医学者が推薦している。そのほか、放射線療法、石灰吸入療法、肝油トマト療法、膵臓エキスによる治療法などもある。また、ネオアライデンやコクチゲンなど効果不明の結核治療薬も登場した(昭和16年頃)。
 ここでは、マスコミや多くの医師が推薦するものにも注意が必要であることを述べる。

13.認知症
 認知症(痴呆)や一部の精神病に対しては、早くから「ショック療法」が行われてきた。例えば、早発性痴呆に対するインシュリンショック療法などである。それらの実際と効果、現在の医学・医療にどのような影響を与えているのか、言及する。

14.食中毒防止法
 現在、O157に関して、特定の食品を摂ることで食中毒を防止することが注目されているが、そのような研究は、すでに戦前になされている。例えば、納豆(納豆菌)による赤痢の治療、梅干しおよび梅酢によるコレラ菌の殺菌、などである。
 
15.医師会vsアウトサイダー
 昭和の初め、健康保険がない人たちのために低料金で診察する「実費診療所」が作られ、人気を集めた。自治体もこの種の診療所を作った。しかし、この「実費診療所」に対して、医師会が大反発し、最高裁まで争う事態になった(八王子事件)。これは、かつて全国各地で、医師会と徳州会病院グループが争っているのと非常に似ている。また、医師会は、戦前において、「西式健康法」をはじめとする民間療法を目の敵にした。

16.外国ものが入ってくる
 アメリカで今世紀初めくらいに非常に話題になり、結局インチキだとわかった治療法・健康法が、日本に上陸しつつある。例えば、ダイアネティクス、オルゴンエネルギーなどである。そのような手を変え品を変え上陸しようとする外国の、もう決着済みの治療法・健康法を紹介する。


 (以上)