講演の記録2
「官報の徹底活用法及び医療情報」講演レジュメより
(日本ビジネスインテリジェンス協会例会、1999年2月15日) 牧 潤二
1.官報を読むための基本
今なぜ官報なのか
1. “神は細部に宿る”→ 法令や官庁報告の全文を読んで初めてわかることも多い。
2.最近、社会・経済情勢から、国会で法律が成立してから公布・施行までの時間が短くなっている。→ 年1回刊行の『六法』の類ではとても間に合わない。
3.時代は情報公開の方向に。→ その「情報」は何らかの形で官報に掲載される。
4.多種多様な情報がコンパクトにまとめられている。 → それらの情報を別の資料から得ようとすれば、時間的・経済的負担が大きい。
5.住所・氏名(団体名)などが入った具体的な情報が多い。
6.政府調達公告版は、官庁と取引をしようとする者にとって必須の情報。
7.近・現代史に興味を持つ者にとって、バックナンバーは必須の史料。
8.官報は、一般民間人ではあまり読まれていない(ジャーナリストでも読んでいる人は少ない)。 → 事実上、独自の情報源となる。
官報の作られ方
官報の最も大きな役目は法令を公布することで、これは具体的には、大蔵省印刷局と東京都官報販売所が午前8時半に官報を掲示・販売することによる。
官報の編集・印刷をしているのは大蔵省印刷局(官報課、虎の門工場)。ただし、法令をいつ官報に掲載するかは、閣議で決めている。天皇のご裁可の後、内閣官房がその法令の原稿をまとめ、大蔵省印刷局官報課に渡す。
官報の発行部数は約5万部で、購読は役所や図書館など公的機関が中心となっている。また、官報は、官報販売所の近くは配達されるが、通常は郵送(月極3,596円)の形で購読することになる。
官報を読む第一歩
官報を定期購読すると、官報本紙(月~金曜発行)、官報号外(月~金曜ほぼ毎日発行)、官報政府調達公告版(同)、官報資料版(水曜日発行)が送られてくる。また、官報号外には2種類ある。1つは、突発的な事態(速報すべき事態)に対応した号外(一般紙の号外に相当するもの)で、これは「号外特」と記載されているが、実際、発行される回数は少ない。もう1つ(ほとんどの号外)は、本紙に入れると分厚くなりすぎる法令や情報を号外の形にしているもので、実体は官報「別冊」である。したがって、号外にも必ず目を通さなければならない。
官報(本紙)は、1ページ目が目次となっている。最初に法令の名称などが掲載されているが、①詔書(通常は単独で号外)②法律③政令④条約⑤最高裁規則⑥府令⑦省令⑧規則(会計検査院、人事院等)⑨庁令⑩訓令⑪告示--という順序になることが決まっている。それは重要な順といえるが、憲法改正があればこれが法律の上にくる。また、法律、政令、条約については、目次の次の欄に「法令のあらまし」(法令の概要)が掲載される。通常、多いのは省令と告示である。
その告示の次に、皇室、国会、官庁報告などの記事が出る。そのような記事があることは目次からわかるが、内容はわからない。
読み方として、まず、官報本紙での1ページ目の目次において、法令の部分をよく見る。自分のビジネスに関係している省庁(医療関係者の場合は特に厚生省)の名前を探し、それがあれば目次のタイトルをよく読み、必要に応じて本文が掲載されているページを開く。次に、目次の後半の部分である国会、皇室、官庁報告などの項目を眺める。次に、官報号外に移り、1ページ目の目次から読み始める。さらに、余裕があれば『政府調達公告版』を開く。
特に注意が必要なのは3の倍数月
官報に法令が多く掲載されるのは、通常国会が終わる6月、臨時国会が終わる9~10月あるいは12月など。また、新年度を目前とした3月は、省令や告示が非常に多く出る。一方、国会や官庁が夏休みになる8月は、官報のページ数も少ない。
2.医療・福祉関係の情報を集める
官報での医療関係情報の実際
最近、官報に掲載された法令で特に仕事に役立ったのは、次のようなものである。
1.平成9年12月17日付号外での、介護保険法の公布。および、それ以後の関連の政令と省令。すなわち、12月以降に公布された法律が「厚生六法」の類に掲載されるのは1年後になる。また、介護保険法だけでも官報(号外)の20ページ以上を使う膨大な法律であり、書籍や雑誌には大部分が省略された形でしか載らない。その意味で、法令を体系化してちんと把握しておくことは、重要である。
2.医療機関の広告の規制緩和についての厚生省告示 (平成10年8月28日付官報)
3.新しい国家資格である言語聴覚士、精神保健福祉士についての法律(言語聴覚士法、精神保健福祉士法)の公布(平成9年12月19日付官報号外)。その後の一連の政令・省令、国家試験の公告など。
4.厚生大臣の指定する保険医療機関の病棟における療養に要する費用の額の算定方法を定める告示。(急性期医療費の定額払いを一部医療機関で試行する告示、平成10年10月22日付官報号外)
5.精神薄弱の用語の整理のための関係法律の一部を改正する法律(平成10年9月28日付官報)、および関連の政令。
6.感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律の公布(平成10年10月2日付官報号外)、および関連の政令。
法令・告示レベルで特に重要な事項
1.新制度に関する一連の法令。
例えば介護保険制度についての法令の公布は、介護保険法(平成9年12月17日)→介護保険法の一部の施行期日を定める政令(10年1月8日)、介護保険法第8条の審議会を定める政令(同)→介護支援専門員に関する省令(10年4月10日)→介護保険法施行令(10年12月24日)、と続いている。今後も、さまざまな省令や告示が出るはずである。このような流れを把握し、制度全体を理解することが重要である。
2.薬価基準(健保適用した新薬の価格)、材料価格(医療機器などの価格)の告示。
3.希少疾病用医薬品(オーファンドラッグ)の告示。
4.診療報酬の改定の告示。(多くは3月中旬)
薬剤情報のフォローの実際について
昨年春頃からマスコミではバイアグラという薬剤の話題が続いているが、平成11年1月25日付け官報において、シルデナフィル(バイアグラ)の承認と同時に、それに関する省令と告示が出た。その省令の意味は、薬種商(いわば“簡易薬店”)はバイアグラを扱えないということ。また、告示は、バイアグラは要指示薬とし、薬局などは販売の記録を残すように、といった意味である。つまり、その省令と告示は、コインの裏表の関係にある。薬理作用や副作用が強い薬剤の場合、このような省令や告示が出るので、注意が必要である。
ここで官報が有用なのは、シルデナフィル(バイアグラ)と一緒に、エポプロステノールという薬も掲載されていることである。このエポプロステノールという薬はバイアグラと同じような扱いであり、かなり薬理作用のある重要な薬であることが推測される。ちなみに、それは原発性肺高血圧症に対して用いる薬剤である。
このように、官報を見ていくことで、バイアグラという1つの薬剤だけでなく、もう1つ重要なエポプロステノールという薬剤についても知識を得ることができるわけである。しかも、このようにして得た知識は、なかなか忘れない。
また、ここで注意が必要なのは、まだ薬価基準の厚生省告示(医薬品の公定価格の告示、健保適用の薬剤になったというのが実質的な意味)が出ていないことである。健保が適用にならない限り、薬剤としてのマーケットは大きくならない。その意味でも、薬価基準の告示に注目する必要がある。今日現在、シルデナフィルは「薬価基準」の告示が出ておらず、健保適用の薬剤にはなっていないので、大きなマーケットは得ていない。(ただし、すでに承認・製造許可はされているので、健保適用にこだわらず=自由診療で使う薬剤として=適当な値段をつけて市場に出すことは可能。このあたりはメーカーのマーケティング戦略による。)
厚生省告示から企業の動きを見る
厚生省の告示からは、薬剤だけでなく、さまざまな情報が得られる。例えば、企業の動きを、健康保険組合という視点から見ることができる。すなわち、最近では、社会・経済情勢を反映して、健康保険組合の解散・分割・合併などが増えている。この場合、必ず、厚生省告示の形で官報に掲載される。例えば、平成10年12月25日付官報により、たくぎん(北海道拓殖銀行)の健康保険組合がどのように分割・合併したかがわかる。
文部省の情報に注意する
医学・医療の分野には、案外、文部省も多く関わっている。例えば、国立病院は厚生省が管轄するが、国立大学の附属病院は直接的には文部省の管轄となっている。また、医学部や医療関係専修学校の教育内容も、文部省が管轄している。その意味で、文部省の省令や告示にも注意が必要である。
例えば、保健婦助産婦看護婦法に規定する学校、診療放射線技師法に規定する学校、理学療法士及び作業療法士法に規定する学校、臨床工学技士法に規定する学校など、医療スタッフの養成校の指定は、文部省が行っている(文部省告示)。
また、官報での文部省告示が膨大な資料になるものとして、「専門士の称号の付与に関し文部大臣が専門士と称することができる専修学校専門課程として個別に認めた件」(厚生省告示179)がある(平成10年12月21日付官報号外)。これにより、専修学校(いわゆる専門学校)による医療関係の教育にはどのようなものがあり、それをきちんと行っている学校はどこか、ということがわかる。
労働省の情報にも注意する
最近、勤労者の健康を守るという観点から、労働省が医療の分野に積極的に関わろうとしている。例えば、労働省の補助金により、病院がフィットネスクラブのようなものを作る例もある。その意味では、官報での労働省の情報も見逃せない。
もう1つ重要なのは、医療関係の教育でも勤労者に対するものは労働省が管轄している、ということである。例えば、労働省告示の「雇用保険法第60条の2第1項の規定に基づいた労働大臣が指定する教育訓練を定める件」(平成10年10月29日付官報号外、3分冊)が、労働省の認めたまともな通信教育のリストとして役立つ。これにより、例えば女子栄養大学が「治療食コース」という通信教育をしていることがわかる。
国会事項の中の「質問書提出」に注意する
官報の目次での「告示」の次、つまり官報の後半の始まりは、たいてい「国会事項」である。この「国会事項」の中に「質問書提出」という項目がある。この質問書(質問主意書)とは、国会の本会議や委員会で口頭で質問するのとは別に、文書で質問することをいう。質問主意書の提出には特に制限がないので、その提出数が多いほど熱心な議員である、と見ることもできる。
官報には、議員から質問主意書が出たら、そのタイトル、いつ内閣に送ったか、いつ回答があったか、きちんと掲載される。質問主意書の内容としては、健康や福祉に関わることが比較的多い。したがって、質問主意書をフォローすることで▼この問題については、どの議員が関心を持っている▼その問題については、あの議員に聞いてみよう--といった判断材料が得られる。
例えば、但馬久美議員(公明)は「高齢者対応住宅に関する質問主意書」を提出(平成10年12月8日付官報)。小川勝也議員(民主)は「砂遊び場の衛生管理に関する質問主意書」を提出(同12月10日付官報)。(注:官報には所属会派名は出ない)
国会の請願の情報から将来を読む
国会の会期末には衆議院および参議院で請願の採択が行われ、その結果が官報に掲載される。この採択された請願は通常、健康・医療・福祉に関するものが2~3割を占めている。それらは、すぐに実現されるわけではないが、将来の方向をある程度示しているので、注意して目を通しておく。
請願が実際に多いのは、衆議院である。したがって、特に通常国会の会期末、つまり6月末頃の官報の「国会事項」での衆議院の議事日程の項目に、特に注意する。最初、そこに、請願書の名称、それを紹介した議員の名前などが掲載される(この段階では、まだ請願は採択されていない)。その請願書の名称から、どのような内容か、大体は見当がつく。また、どの国会議員がその問題(請願の内容)に興味を持っているかも、知ることができる。その議事日程が掲載された2~3日後、「請願書送付」として、実際に衆議院で採択して内閣に送付した請願書の名称、通(その請願の数)などが掲載される。その「通」が多いほど、社会的な要望も大きいと考えられるわけである。
例えば、平成10年6月22日付官報での「請願書送付」の1つに、「社会福祉制度の拡充による保健・医療機関で働くソーシャルワーカーの資格に関する請願」がある。それは30通なので、要望が比較的多いことも推測できる。また、その請願が採択されたことで、いわゆる医療ソーシャルワーカー(病院内のケースワーカー)が数年後には国家資格化される可能性がある、とみておく。
ちなみに、国家資格や資格制度に関する請願が採択されたら、それが実現することも多いので特に注意しておく(国家資格化は出版や通信教育のビジネスにもつながる)。ただし、その資格化・制度化までには時間がかかる。例えば、文書館専門職員養成制度の確立に関する請願が5年前に国会で採択されたが、この制度化に向けて政府レベルで動き(「アーキビスト」の養成)が出たのは昨年のことである。
「人事異動」は幅広い対象
官報には「人事異動」の欄がある。これは、中央省庁(課長クラス以上)だけでなく、その審議会委員の任命、都道府県(部長クラス以上)や政令指定都市(局長クラス以上)の人事異動も対象となっている。また、国際会議に出席するなど一時的な動向(任命)についても掲載される。したがって、一般紙よりもはるかに多くの情報が得られる。
医療の観点からは、特に国立病院や研究機関の人事異動に注目する。
「皇室事項」で視察の施設をチェックする
官報には「皇室事項」が定期的に掲載される。ここには「行幸啓」(ぎょうこうけい)として天皇皇后両陛下の行動が報告されるが、時々、福祉施設などにも視察に行っておられるのがわかる。両陛下が行かれるくらいだから、まともな注目すべき施設だろう、と判断しておく。(平成10年12月14日付官報)
「官庁報告」も役立つ
官報の最後の方に「官庁報告」という項目ある。その内容は目次からはよくわからないが、次のような情報に注意する必要がある。
「官庁報告」での「産業」の項目に、新しい日本工業規格が掲載されることがある。この場合、それを管轄する省庁の名前も出るので、「厚生省」とあった場合は注意する。例えば、心電図監視装置の規格が改正された、といったことが掲載される。(平成10年12月25日付官報)
また、「官庁報告」での「労働」の項目に、「争議行為の通知の公表について(労働省)」が、春闘の時期だけでなく一年を通じてよく出ている。これはストライキの予告であるわけだが、それによって、業界の労働状況、労働組合の組織状況を知ることができる。例えば、医療界での大きなグループの1つに健和会があるが、平成10年10月19日付官報において、同会の労働組合が年末一時金等の要求に関して争議行為を行うということが公表された。これにより、その労組がどの病院・施設で組織されているかも把握できる。
国家試験委員から“傾向と対策”を知る
官報の「官庁報告」の欄によく出るのが、国家試験を実施するという公告である。この場合、国家試験実施の公告とともに、その試験委員の名前の公告も行われることが多い。特に新しい国家資格の場合、その試験の内容、“傾向と対策”を知る意味で、試験委員がどのようなメンバーで、専門分野は何か、ということに注目する必要がある。例えば、医療の分野でこのほど「言語聴覚士」が法制化されたが、その第一回の国家試験の試験委員の公告が平成10年10月30日付官報で行われた。受験をする者にとって、それは重要な情報である。
また、試験委員のメンバーの所属(官報には出ない)を調べることで、その分野の勢力分布などもある程度把握できる。
政治団体の収支に関する報告書を読む
毎年9月に、自治省から「政治団体の収支に関する報告書」が公表される。同報告書は自治省に行かなければ閲覧できないかのように報道されているが(テレビなどでは自治省で閲覧している人の絵が出るが)、これは官報にも膨大な資料(厚さ約10cm)として掲載される。また、この報告書は、医療関係者の政治状況を知るのに非常に役立つ。例えば、次のような見方をする。
医療関係者の職能団体(社団法人等)は、そのままでは政治活動ができないので、政治団体として別組織を作っている。また、それは、日本医師連盟、日本歯科医師連盟、日本眼科医連盟、日本薬剤師連盟、日本看護連盟、日本歯科衛生士連盟、日本歯科技工士連盟、日本病院会政治連盟、日本薬業政治連盟--といったように、たいていは「日本」を冠した名称である(「日本美容外科学会」、「日本美容内科学会」などという政治団体もあり、美容関係の医師は政治活動に熱心なこともわかる)。この報告書は目次がないが、五十音順に並んでいるので、それらの団体が掲載されているページを探し、収支状況、どこから寄附があるか、といったことを見ていく。
また、医療政策に大きな影響を与えている政治家の政治団体について、どこから寄附があるのかを見る。例えば、現在、自民党の医療政策に大きな決定力を持っているのが丹羽雄哉氏(衆議院議員、元厚生大臣)である。同氏の政治団体である「雄親会」(平成10年9月11日付官報号外527ページ)がどこから寄附を受けたかをチェックすると、医師の政治団体はほとんど見あたらず、理学療法士、薬剤師、歯科衛生士などの政治団体が多いことがわかる。したがって、丹羽氏の次元では医師の影響を大きく受ける可能性は少ない、と推測しておく。
ちなみに、医師の政治団体がよく寄附をするのは、医師出身の議員、将来性のある政治家(派閥のリーダークラス)などである。医師の政治団体と医師以外の医療スタッフの政治団体の両方から寄附を受けている政治家(政治団体)は、非常に少ない。これは、医師とそれ以外の医療スタッフの利害が対立していることの反映でもある。
『政府調達公告版』はマーケット情報に
官報には以前から、国や政府外郭団体の入札などを公告するページがあった。しかし、90年代になり、外国企業ももっと入札などに参加させなければいけないという声が、WTOを中心に外国で強くなった。それで、1994年6月から、外国企業の人たちにも入札の情報がよくわかり(英語でも掲載)、入札に参加してもらうようにするということで、官報の本紙から独立した形で、『政府調達公告版』が発行されるようになった。
この『政府調達公告版』は、入札とまったく関係ない者にとっても重要な情報となる。すなわち、そこには、国立(公的)病院や国立大学付属病院の入札、あるいは資料提供招請の公告が、よく出る。それを見ていれば、どこの病院ではどんな情報システム(コンピュータシステム)を作ろうとしているのか、どのような新型医療機器あるいは薬剤に大量の需要(入札)があるのか、といったマーケットの状況を知ることができるのである。実際、医療関係の「政府調達」は、かなり時代を反映したものとなる。例えば数年前、国が骨粗鬆症の対策に本格的に取り組むようになった時期には、骨密度測定器の入札の公告がたくさん出た。
ところで、「政府調達」には個人やSOHO(スモール・オフィス/ホーム・オフィス)向きのものもあることが、意外に知られていない。例えば「役務の提供」に分類される翻訳・通訳、写真、製図、調査研究、映画製作、広告、コンピュータサービス、といったものである。ただし、英語の通訳のように個人レベルの能力が問われるものであっても、中央官庁は一般に、例えば英検1級を取得しているといったような能力に関することは無視し、仕事をしてきた期間を重視する(営業年数を点数化する)。これでは、英語の能力があっても若い人、技術力があっても歴史の浅い企業などは「政府調達」に参加するのがきわめて困難である。ここにも、社会や経済が活性化しない理由の一つがあろう。(官報が一般に読まれていないため、そのような問題の指摘も出ないのであろう。)
今後の官報の見所
来年(平成12年)4月から介護保険制度がスタートするのに伴い、医療(保険)制度も大幅に変わる。このように医療・福祉分野で根本的に新しい制度が始まるのは、昭和36年の「国民皆保険」達成以来のことといえる。つまり、およそ50年に1度の大きな制度改革を控えているわけで、それについての省令や告示、例えば個別の介護や医療の点数(料金)の告示が、来年の1~3月(特に3月中旬)に集中する。その意味で、医療・福祉関係者は、特にこれから1年ほどの間、官報に注目する必要がある。
また今後、省庁再編や地方分権に関連して、官報には膨大な量の法令が掲載されることになろう。
医療・福祉情報の整理について
筆者の場合、官報の目次の部分を少し省略しながらノートパソコン(ワープロソフト)に1行(100字以内、媒体名=『官報』や西暦・日付も)で入力・保存(テキストファイル)しておき、これを1か月単位で、マイクロソフトの「エクセル97」と「アクセス97」でのファイルに加えていく。(これは、新聞の切り抜き=見出し=や医学・医療の専門誌の目次の入力と合わせて、一つのデータベースにしている。)
「and」あるいは「or」ですむ検索なら「エクセル97」のほうが簡単で高速だが、年月や媒体名なども加えた少し複雑な条件での検索になると「アクセス97」のほうが便利である。これは“1行メモ”の形式をとっていて、リレーショナル・データベースにはしていないが、むしろ、このほうが融通がきく(例えば気軽にアイデアなども入力しておける)。
3.一般ビジネスに官報を利用する
広くビジネスに活用するための基本
1.大蔵省印刷局が活用してほしいと最もPRしているのは、①官報に公示催告-除権判決の公告をすること(手形・小切手・株券などが盗難にあったり紛失した場合の、悪用されないための法的対応)、②決算公告(料金が一般紙と比べて安い)、などである。
2.地域の具体的な動き、地域経済の実態などを、官報で知ることができる。例えば、帰化(法務省告示)、破産、和議、特別清算、会社更正、相続、禁治産(準禁治産)宣告、法人設立許可取消処分、団体の解散、割賦販売業者等の営業廃止--などについて、住所・氏名が掲載される。ちなみに、最近は破産(自己破産)が非常に多いが、これは裁判所単位で掲載されるので、地域の経済状況を効率的に把握できる。
3.「第一種大規模小売店舗における小売業に関する公示」(大規模小売店審議会)として、公聴会において意見を述べたい人に対する案内が、頻繁に掲載される。これにより、どの企業がどこにスーパーマーケットを出そうとしているか、といったことがわかる(詳しく知りたければ、実際に公聴会に出ればよい)。 (この公示を『日経流通新聞』では月単位で掲載中)
4.官報に掲載される諸資料・経済データは一般紙よりもかなり詳しいので、これを活用する(以下参照)。
官報に掲載される諸資料を活用する
▼『官報資料版』(毎週水曜日発行)に定期的に掲載される資料としては、次のようなものがある。
【各省庁】「白書」類(通常、8ページくらいを使って掲載・紹介されるので、一般紙よりもはるかに詳しい)
【内閣官房】第○国会で審議された法律案・条約の一覧表、内閣が国会に提出しようとしている法律案・条約
【総務庁】労働力調査、消費者物価指数の動向、家計収支、単身世帯収支調査の概況、我が国の人口推計、平成○年度平均家計収支、平成○年平均消費者物価地域差指数の概況、統計からみた我が国の高齢者、平成○年社会生活基本調査結果の概要、貯蓄と負債の動向、わが国のこどもの数
【総理府】男女共同参画の現状と施策のあらまし、公益法人に関する年次報告
【大蔵省】景気予測調査、法人企業の経営動向、平成○年度予算の概要
【労働省】勤労統計調査、平成○年賃金構造基本統計調査結果の概要、平成○年度働く女性の実情
【農水省】平成○年度農業観測
【文部省】平成○年度体力・運動能力調査の結果
【経済企画庁】法人企業動向調査、普通世帯の消費動向調査、月例経済報告
【会計検査院】平成○年度決算検査報告の概要
【公害等調整委員会】全国の公害苦情の実態
▼上記『官報資料版』とは別に、官報本紙にも「資料」という欄がある。この欄には速報的かつ定期的に、資料が掲載される。例えば、閣議決定等事項、国際収支状況(大蔵省)、国庫歳入歳出状況(同)、貿易統計(同)、石油統計(通産省)、建設着工統計調査報告概要(建設省)、郵便の種類別収支(郵政省)、郵便事業の決算(同)、機械受注統計調査報告(経企庁)、四半期別国民所得統計(同)、日本と世界の天候(気象庁)、といったものである。
年1回掲載される膨大な資料
1.地価公示(土地鑑定委員会公示、12分冊で約6cmの厚さ) (毎年3月末頃)
2.政治団体の収支に関する報告書要旨、政党交付金の使徒等に関する報告書要旨(自治省、2つの報告書を合わせると19分冊、約10cmの厚さ) (毎年9月中旬)
3.特殊法人の決算財務諸表(5分冊) (毎年8月末頃)
上記の1については、一般紙では国土庁が公表したように書かれていることがあるが、正しくは土地鑑定委員会公示である。(上記の2については前述)
また、上記の3は、あらゆる業界の人に役立つ。医療関係者の場合、例えば社会福祉・医療事業団などを見る。ここでは決算・財務諸表だけでなく、役員の氏名(出身・最終官職)、事業計画などが掲載されており、組織の最新の状況を把握できる。
なお、膨大というほどではないが、官報では平成9年から、国家行政組織法の規定に基づき(情報公開の意味も含めて)、中央官庁の組織や設置している審議会が、報告されている(年1回、12月頃)。厚生省などの中央官庁の組織は近年、想像以上に大きく変わっているので、この種の資料も役立つ。
ちなみに、官報は任意の日だけ買うこともできるが、官報1部の価格はページ数を元に計算するので、上記(1,2)のような分厚い官報(号外)の場合、月極価格よりもむしろ高くなってしまう可能性がある。(その意味でも、官報は定期購読した方が得である。)
官報が読める施設
▼創刊号から最新号まで自由に閲覧したいなら、国立国会図書館(千代田区永田町1-10-1、電話03-3581-2331)が便利である。(コピー=一部はマイクロ=も可)
▼明治から昭和20年代くらいまでの官報の記事(正確には法令等の公文書)の目録が充実しているのが、国立公文書館(千代田区北の丸公園3-2、電話03-3214-0621)。官庁の文書を手がかりに近・現代史を研究するならば、一度は行っておきたい。ただし、「国立」とはいえ、食堂もない小さい施設で、公的な文書以外はあまり保有しておらず、一般雑誌や書籍はほとんどないので要注意。
▼比較的古い官報(昭和2年以降)のコピー(マイクロより)をするなら、国会図書館より、中央区立京橋図書館(中央区築地1-1-1、電話03-3543-9025)のほうが料金が安い(1枚50円)。
▼過去数年分の官報であれば、区・市立クラスの図書館にも揃っている。
インターネットで官報を読む
▼首相官邸(http://www.kantei.go.jp/)
過去半年から1週間ほど前までの官報(本紙・号外、資料版)について、目次と法律・政令・条約の全文=テキストではなく画像形式=が読める。省令や告示については、中身の掲載はないので、注意が必要である。(官報のすべてを読もうとするなら、インターネットでは無理。それで読めるのは官報(本紙・号外)の1割程度=文字数基準=で、やはり官報の現物を手にする必要がある。)
▼全官報「政府刊行物」(http://www.gov-book.or.jp/index.html)
大蔵省外郭団体によるホームページで、前日までの官報(本紙・号外・政府調達版・資料版)の記事内容についてキーワード検索ができるので、官報購読者にとっては便利である。
▼日本貿易振興会(JETRO)「政府公共調達データベース」(http://www.jetro.go.jp/top-j/index.html)
官報の「政府調達公告版」の内容をデータベース化したもの。この「政府調達公告版」の内容の検索は、「全官報」(上記)ではなく、JETROのホームページの中の「政府公共調達データベース」を利用したほうがよい。これは、1994年に「政府調達公告版」の独立とともに、パソコン通信のNIFTYを使って始まり、その後、インターネットに載るようになった。データはかなり蓄積されているはずである。
なお、外国(英語圏)の官報を読みたい場合は、インターネットのサーチエンジンにおいて“Gazette”あるいは“Official Gazette”で検索してみる。しかし、現在、日本ほどきちんと官報をインターネットに載せている国は、他にないようである。
4.より広い観点から官報を活用する
現代史の貴重な史料
官報は何かのコピーではなく、それ自体が本物の公式の文書であり、官報の印刷・掲示は歴史的な行為でもある。官報という観点から近・現代史をみていくと面白く、また新たな疑問も出てくる。例えば昭和20年8月14日付の官報号外(終戦の詔書、内閣告諭の2つの号外)は、いつ印刷・掲示したのか?
8月14日
・午前10時50分頃、御前会議始まる
・12時頃、御前会議が終わる(ポツダム宣言受諾が事実上決まる)
・昼食後、閣議(終戦の詔勅案の文面・字句について審議)
・午後11時頃、各大臣が署名を終える(ポツダム宣言受諾を閣議決定)
(すぐに、首相から天皇に上奏、ご裁可を得る)
・午後11時付でポツダム宣言の受諾に関する詔書=原文=が発布される
・午後11時20分頃から、玉音放送(詔書)の録音が始まる(翌日正午放送)
・午後11時頃から8月15日早朝にかけて、「8.15事件」
(陸軍軍人の一部が終戦を阻止するため、玉音盤を探す → なぜ、官報号外の印刷や掲示を阻止しなかったのか?)
8月15日
・正午 玉音放送 (一般の人はここまで終戦を知らず)
(8月15日付官報では、終戦は読みとれない。この後で8月14日付の号外を印刷? 終戦の“本当”の公布はいつなのか?)
推理小説を書く資料に
官報の「諸事項」での「押収物還付公告」は、“犯罪者からこのような物を押収したが、この本当の持ち主はいませんか”という検察官による公告である。例えば、平成10年のある窃盗事件では、注射器4本、注射針68本、商品券36枚、治療薬マニュアル1冊、管内国立病院・国立療養所要覧1冊、滋賀県立病院名簿1冊、といった「押収物還付公告」が出ている。それらの物品から、さまざまなストーリーが組み立てられよう。
また、「地方公共団体」での「行旅死亡人関係」の項目は、いわゆる「行き倒れ」の身元引受人を捜す公告として、非常に生々しい情報が出ている。
「お宝」となる官報(コレクター向き官報)
1.大正12年9月2日付のガリ版刷り1枚の官報=押印のあるもの=(関東大震災により印刷工場が壊れ、急遽、ガリ版刷りに)
2. 昭和20年8月14日付の二つの号外(終戦の詔書、内閣告諭)
3.官報創刊号(7月1日発行と決められていたが、実際に発行されたのは7月2日。これは7月1日が日曜だったため)
4.官報の別冊「雑報」版の大正12年4月7日付創刊号(以後、同年8月29日付けまで、週1回のペースで発行。同年9月1日の関東大震災により、事実上廃刊)
5.終戦直後の英語版(GHQ向け)
6.平成10年3月31日付官報(掲載すべきでない=法律の成立を前提とする=大蔵省令を掲載。前代未聞のこと)
テレビの「お宝鑑定番組」を参考にあえて値段をつければ、上記の1と2は歴史的文書であり、100万円以上か?
(以上)